please tell me


腕を引かれている訳でもない。逃げ去りたいような衝動は自分が望めば叶うものだった。
でも、教えて欲しいんだ。この心臓の高鳴りを、鼓動の速さを、背を見つめる目に熱さを覚える意味を。

招かれてマルコの部屋を訪れたのは初めてだった。
ここで感じた空の香りは部屋の主が居るだけでこんなにも違う。それがなんだかもどかしくて、本人には気付かれないよう鼻を擦った。
「まあ座れよい」

案内されたのは先日と同じベッド。てっきりマルコは前同様、机に備え付けの椅子に座るものだと思い奥の壁に添うように座ってしまったのはどうやら選択ミス。ドアを向こうに、壁とマルコに挟まれてしまった。
逃げ場が無い。心の奥で「よしっ」と意気込み、口を開いた。

「マルコはさ、今まで何回恋した?」
意気込みも去る事ながら視線は彼から大きく外し、発する。そんなエースに対してマルコは表情を覗き込むように膝に肘を突き、前のめりにエースを見るがさてその質問に答える気があるのか無いのかは、エースがその瞳の奥を探らなければ分かり得ない。
「多分数えきれねえくらいしてんだろうけどさ、オレは恋ってやつを自覚してしてきた事は一度もねえ」
沈黙に耐え切れずエースは続けた。
視線が痛い程頬に刺さる。息が苦しい。呼吸が上がっているのだろうか。声は真っ直ぐ出ているのだろうか。

「分からねえんだ。マルコを見ると心臓がこんなにバクバクしたり、マルコに触れられると熱くなったり…今までこんな事、一度も無かった。マルコはこういう気持ちの事、何て言うか知ってんだろ」
視線を落とし眺めていた床を這わせ、ゆっくりとマルコの足へ視線を移し口を堅く結ぶ。マルコの返答を待っている。

「ああ、知ってるよい」
それから視線をマルコと目線がぶつかる位置まで上げると同時に、景色を仰いだ。いや、仰がされた。
見える姿はマルコただ1人。そこに変わりは無かったが、奥に見えて居た景色がドアから天井へ変化した同時に背中の誇りは完全にベッドに隠されてしまう。
自分の頭の横に骨ばったマルコの手が付いている。そしてうるさく叫ぶ胸の上へもう片手が乗っていた。
ああ、この手に押され倒されたんだ。
エースののんびりとした脳が考える、その冷静さとは裏腹に、顔の熱上昇は早い。
視線を外して起こそうと身を捩るも、顔の横に付いていた手で肩を押さえられ、許されない。
「まぁ寝てろよい。こういう話はオヤジが見てるとしにくい」
「マルコなんかエロいよ」
「………」
見上げられた瞳は微かに揺らぎ、そばかすが乗った頬もうっすら赤い。「どっちが」と言わせんばかりのエースに一度頭を抱え、大きく息を吐く。

「マルコの話って、なに?」
溜め息に不安になったエースが脱落させていた手でマルコのシャツを掴み、今度はこちらから瞳の奥を探ろうと覗き込む。
「大方、お前と一緒だよい」
「マルコはいつもそうやって逃げんだ…ずりぃよ」
フンッと鼻を鳴らして手を離し、せっかく捉まえたエースの視線を逃がしてしまった。
いつまでも誤魔化せないか。
エースの鼓動を感じ取っていた手を離し、親指でそっと左頬を撫でる。それにエースは驚いたような瞳を見せたが、止める余地はない。
指で撫でた時より優しくマルコは、反対の頬へキスを落とした。そして、そのまま唇を滑らせて耳へ唇を当てる。
「ドキドキするかよい、オレに」
声自体は大きくない。しかし鼓膜に直接注ぎ込まれたその音は熱を持ち、まるで酒に酔った時のような熱さとふわふわ感覚へ誘う。
「なぁ、エース」


「教えてくれよい」


「……」

一瞬宙を食らった唇は、次の瞬間確かに音を発した。
「す、る」
今のエースにはその二文字で精一杯だったのだろう。その様子にマルコもクスリと小さく笑って顔を上げる。
顔を真っ赤に染めて、逸らされた視線はあまりに可愛らし過ぎて、つい手を出したくなる。拾うようにウェーブ掛かった髪の毛へ手を絡ませ、愛しいものを見るような目で笑んだ。

「オレもだ、エース。お前にドキドキするよい」
それから口を隠していた手を捕られてしまい再び顔が自分のものと距離を無くす。
オレは訳も分からず目を閉じた。この瞬間の脈の速さはきっと、マルコだって知らない。
エースがマルコに"恋"を感じた一瞬だった。


それからマルコとエースの間になにか変化があったかと言えば、多分オレ以外の仲間は一切気付かないだろう。あいつらもあんな顔して、秘め事を隠すのは上手いと来た。
あ、再び登場です。オレです。サッチです。
え?オレは何故知ってるかって?そんなもん、聞いたに決まってるじゃないですか。エースから聞き出しましたよ。
オレが感付く?ないないないないね。パイン野郎は絶対そんな素振り見せないしねー。
まぁ、オレからすれば微笑ましいもんですよ。え?独り?もう気にしないぜ。
だってあいつら、そこにある恋を見つけたんだからさ。



-*TO BE CONTINUE*-